こんにちは。獣医師の藤原です。
人間と同じように、猫もくしゃみや鼻水を出すような呼吸器の病気にかかることがあります。
複数の細菌、ウィルス、真菌などが混合感染していることが多く、「猫風邪」とも言われることがあります。
原因は病原体の感染によるものなので、治療法は病原体を排除することです。
軽いクシャミや鼻水でしたら、点鼻や抗生剤の注射だけで治ってしまうことも多いですが、悪化してしまうと・・・!?
今回は、そんな呼吸器の感染症がひどくなってしまった猫ちゃんの症例をご報告させていただきます。
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推定17歳、メス、MIX猫のMちゃん(仮名)
2〜3週間前からくしゃみ・鼻水がでており、だんだんひどくなってきて、ここ最近は呼吸が苦しそうとのことでご来院されました。
ご来院時は肩で息をしている状態でかなり苦しそうでした。
息をするたびに鼻をブーブーならしており、呼吸音もゼーゼーと聞こえます。
鼻水は粘稠性があり、白っぽい鼻水を出しています。
レントゲンを撮ると、肺が白くもやもや写っているところがいくつもありました。
このような場合、呼吸するのもしんどい状況なので検査中にも呼吸困難に陥ってしまう危険があります。
酸素のお部屋で休んでもらいながら、少しずつ検査を進めていきました。
鼻水は膿状であることから、何かの病原体に感染していることが考えられます。
鼻水のスワブ検査では棒状の菌が大量に検出されました。
最初に書かせていただいた通り、感染症で肺炎を起こしてしまっている場合、治療法は原因となっている病原体をやっつけることです。
感染している病原体の種類によって効く薬、効かない薬があります。
すぐに病原体の種類を調べる検査(ウイルスのPCR検査、菌培養検査)を行い、その結果が出るまで、点滴と抗生剤、インターフェロンの投与、吸入療法を対症療法として連日行いました。
呼吸器疾患の場合、吸入療法(ネブライザー)はダイレクトに呼吸器に薬を届けることができるので非常に効果が高いです。
動物は自分で薬液を吸ってくれないので、霧状の薬液を充満させた部屋に入ってもらいます。(↓写真が実際吸入療法を行なっている様子です。)
さて、Mちゃんに感染していた病原体は・・・
・Mycoplasma felis
・Staphylococcus cohnii subsp. Cohnii
・Corynebacterium sp.
・Pasteurella multocida
鼻水のスワブ検査で認められた棒状の細菌はPasteurellaかな?と思います。
鼻水のスワブを染色しただけでは何の菌か、どんな抗生剤が効くのかまではわかりません。
PCRなどの特殊検査は時間がかかりますが、病原体を特定できることが多く、Mちゃんのように状態が悪く時間的余裕のない子や一般的な抗生剤でなかなか良くならない子にはとても有用な検査と感じます。
Mちゃんは、最初は食欲もあまりなく苦しそうな状態が続いていましたが、判明した病原体に効く抗生剤に変えると徐々に呼吸状態が改善していきました。
投与開始から10日目には食欲もしっかりでてきて、くしゃみ・鼻水もほとんど見られなくなりました!
今回感染していた病原体の1つにマイコプラズマ(Mycoplasma felis)があります。
マイコプラズマは常在菌の1つでもあるのですが、他の細菌感染があったり免疫力が落ちていると、結膜炎、気管支炎、ひどい場合には肺炎などの呼吸器症状を引き起こしてしまいます。
マイコプラズマによる肺炎はなかなかしぶとく、症状が改善してもすぐに投薬をやめてしまうとぶり返します。
Mちゃんも投薬開始から10日目以降ほとんど症状は見られなくなっていましたが、1ヶ月程度は続けてもらいました。
もう内服をやめて数ヶ月経ちますが、幸いぶり返していないみたいです。
複数の猫ちゃんを飼っていらっしゃるご家庭では、一頭から同居の猫ちゃんみんなにうつってしまう可能性があるので、発症してる猫ちゃんを隔離し、タオルや食器の共有は避けてもらう必要があります。
また、Mちゃんのかかった病原体は人にはうつりませんが、中には人にうつるものもあるので、やはり原因が何かということは重要ですね。
Mちゃんのように、呼吸器の感染症は感染している病原体によっては治しにくい場合もあります。
また、肺炎まで患ってしまうと、最悪の場合呼吸困難で亡くなってしまう危険もあります。
Mちゃんは感染症でしたが、同じようにくしゃみをしていても、免疫異常による病気だったり腫瘍ができている場合もあります。
ひどくなってしまう前に原因を特定して治療を開始してあげることが大事だと改めて感じました。