こんにちは 獣医師の関原です。
今回は「避妊手術を受けていない」、「雌の」ワンちゃん、猫ちゃんを飼っている飼い主様に向けたお話です。
特に
・避妊手術をさせようか迷っている
・小さい頃はさせようと思っていたけど、この年になったらもういいかな
・元気なのにわざわざ手術する必要あるの?
こんなことをお考えの方々にぜひ読んでいただきたい内容です。
なお、途中に術中の画像が含まれますので、苦手な方はご注意ください。
今回ご紹介するのは「子宮蓄膿症」という疾患です。名前の通りで、子宮内に膿が溜まってしまう病気です。陰部からの膿汁排出が見られるものを「開放型」、排膿が見られないものを「閉鎖型」と言います。開放型の場合は、飼い主様が異変に気付きやすいですが、閉鎖型の場合は発見が難しく、かなり病状が進行してから来院されることも珍しくありません。
【原因】
子宮蓄膿症を発症する根本的な原因は発情です。発情のたびに子宮内膜が刺激され徐々に肥厚していきます。その状態で子宮内に細菌感染が起こることで子宮蓄膿症を発症します。一般的には中高齢動物の発症が多いですが、当院では1歳8ヵ月齢のワンちゃんが発症したケースを経験しています。年齢によらず、未避妊の動物は注意が必要です。
【治療】
・外科手術:卵巣子宮の全摘出手術を行います。再発の心配もなく、無事に手術できれば予後良好なことが多いです。特別な理由(飼い主様の意向、動物がかなり弱っている、など)がなければ治療法の第一選択は外科手術となります。
・内科療法:排膿を促す注射薬、抗生剤の投与などで治療します。一時的に状態は良化しますが、卵巣・子宮は残っているため、次回発情後に再び子宮蓄膿症になる可能性が高いです。繁殖犬だから卵巣・子宮は残したい、その他の基礎疾患があり麻酔をかけるのが困難である、などの理由から内科療法を選択することもあります。
【症状】
元気消失、食欲低下、発熱、多飲多尿などの非特異的な症状が多いです。陰部からの排膿の有無はタイプにより異なるため、排膿してないから大丈夫!とは言えません。発症のタイミングは発情終了~約2ヵ月と決まっています。この時期に体調不良となったら子宮蓄膿症の可能性が高いと言えます。
今回紹介する症例は、9歳1か月の未避妊のワンちゃんです。1週間前から元気食欲がなく、ぐったりした状態で来院されました。発情は2週間前に終了したばかり、とおっしゃっていました。血液検査をすると炎症の数値が重度に上昇していることが分かりました。白血球数は基準値の約5倍、CRP(炎症反応性蛋白質)は基準値の10倍以上という結果でした。
腹部のエコー検査で、液体を貯留した巨大な子宮が見られました。
陰部からの排膿が全く見られなかったので、「閉鎖型子宮蓄膿症」と診断しました。
飼い主様が外科手術を選択され、卵巣・子宮の全摘出術を行うことになりました。
※以下に摘出した子宮の画像を掲載します。クリックするとモザイクが外れます。
下に置いたマジックペンと比較していただくとその巨大さが分かるかと思います。子宮の短径は約6cmまで拡張しており、まさに破裂寸前と言った状態でした。
摘出後の子宮に針を刺して内容物を吸引してみると、やはりドロッとした膿汁が採取されました。
この症例は術後の経過も問題なく、無事に退院することができました。
今回は、子宮蓄膿症の恐ろしさと、それを予防するための避妊手術の大切さをお伝えするために、この症例を紹介させていただきました。避妊手術で予防できる病気は子宮蓄膿症だけではありません。乳腺癌や、脱毛症など、性ホルモンが関与しているその他の病気の予防や治療にもつながります。
元気だからやらなくていい、ではなく「元気だからこそ」より安全に避妊手術を受けることができ、より安心した将来を考えてもらいたいと思います。
可愛いワンちゃん、猫ちゃんには是非、避妊手術を受けさせてあげて下さい!!
今回ご紹介した疾患や、避妊・去勢手術に関して気になる方、興味のある方は是非お気軽に当院までご連絡ください!