滋賀県栗東市のこにし動物クリニック 獣医師の藤原です。
今回、子宮蓄膿症になってしまったが、すぐに手術が行えない危険な状態に陥ってしまったわんちゃんを経験したので、ご報告させていただきます。
子宮に膿が溜まってしまう病気です。
腫れた子宮内膜に細菌感染が起きて発症します。
未避妊の高齢の雌犬に多く、7歳を超えて避妊していないと約7割の確率で発症するといわれています。
発情が終わった直後に起こりやすく、膿が出ている場合(開放型)と出ない場合(閉鎖型)とがあります。
膿がでていると気づきやすいですが、出ていない場合は食欲不振など非特異的な症状しかみられないことも多く、気づくのが遅れてしまうことがあります。
膿でパンパンになった子宮は破裂してしまったり、細菌が全身に回って敗血症を起こしてしまうと、最悪のケースでは数日のうちに亡くなってしまうこともある非常に危険な病気です。
・陰部から膿が出ている
・発情がきて1カ月以上経ってるのに終わらない
・急に水を飲む量、おしっこの量が増えた
・体が熱い、熱がでている
・お腹が急に大きく張っている
などなど・・・
ここに挙げたのはわかりやすい症状の例ですが、
ご飯をいつもより食べない・・・などわかりにくい症状しかみられないことも。
子宮蓄膿症の治療方法は外科的に子宮と卵巣を摘出することが第一選択です。
何らかの理由で麻酔が掛けられず手術が行えない場合、膿を出すお薬を注射して内科治療を行う場合もありますが、子宮が体の中にある限り発情が来るたびに再発を繰り返すことがほとんどなので、手術が行えるなら手術することが望ましいです。
今回はすぐにでも手術したいけど、麻酔をかけると危険な状況のために内科治療から行った症例です。
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トイプードル、雌、9歳
皮膚疾患があり、薬浴に月2回程度通院中だったわんちゃん。
皮膚疾患は性ホルモン異常から来ている可能性もあるので、子宮疾患も怖いしそろそろ避妊手術した方がいいねと話していた矢先のことでした。
事前にそんな話をしていたこともあり、
飼い主さんは「もしかしてこれは・・・!」とピンときたようです。
お腹のエコーを見てみると、しっかり液体の溜まった子宮が見えています。
子宮は通常エコーではほとんどみえません。
見えている時点で異常です。
これは手術しないといけないなぁと血液検査の結果と待ちながら考えていましたが、でてきた血液検査結果で手術に待ったがかかりました。
血小板は体の中で出血が起こった時に蓋をして止めてくれる働きがある細胞です。
これが0、つまり全くない状態です。
そのまま手術をしたら血が止まらなくなってしまいます。
子宮蓄膿症による激しい炎症により、血小板が消費されてしまった可能性が考えられました。
今の状態では危険すぎて手術できないため、まずは子宮の排膿を促進するお薬と抗生剤により、内科治療から開始しました。
同時に、この子が血小板を作り始めるまでの間、止血異常から多臓器不全に陥ってしまうことを食い止めるため、輸血を行いました。
治療を開始して5日目にしてようやく自分で血小板を作り始めてくれているようになりました。
1週間ほどの入院で血小板はしっかり回復し、本人もかなり元気になりましたが、子宮の膿はお薬では排出しきれずまだ残っている状態です。
内科治療では子宮蓄膿症を治しきれないと判断し、発症から11日目に手術を行いました。
摘出した子宮は通常の3倍くらいの太さに膨れていて、分厚くなっていました。
手術時に採取した膿の細菌検査から、この子の子宮には通常の抗生剤では効きにくい耐性菌が巣くっていることがわかりました。
なかなか膿がなくならかったのはそのせいかもしれません。
今はすっかり元気になって、中断していた皮膚疾患の治療を再開しています。
でも前より皮膚の状態はよくなってきているかも・・・?
かゆみ止めのお薬がなくてもかかなくなってきています。
やはり性ホルモンの異常も皮膚の痒みに関連していたのかもしれません。
皮膚診療を求めて来られる方の中には、未避妊・未去勢のワンちゃんもしばしばおられます。
こんな怖い病気に陥ることを防ぐために、
そして性ホルモン異常からくる皮膚の不調を改善するために、
一度不妊手術を検討いただければ幸いです♪
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さいごに・・・
この子を救うために、たくさんのわんちゃんと飼い主様方が輸血に協力してくださいました。
この場を借りてお礼申し上げます。
急な呼びかけにも関わらず応えていただき、本当にありがとうございました!!!